研究概要 |
本研究では、マウス胎生中期に造血幹細胞がどのようにしてAGM領域ヘマンジオブラストから発生してくるのか、そして成獣マウスの損傷臓器に骨髄細胞がどのようにして移動していくのか、という二点の解明を目的とした。まず我々はES細胞由来ヘマンジオブラストでは発現せず、成獣骨髄造血幹細胞に特異的に発現する分子を同定した。そこには、SHP1,c-mp1,Nore1などの既知遺伝子に加えて、機能未知の遺伝子(コード名S76)が含まれていた。S76 mRNAは造血系細胞と胎性組織にのみ発現し、膜タンパク質をコードしていた。S76の発現抑制により造血前駆細胞の増殖能が著しく低下し、肥満細胞株のサイトカイン応答性が上がったことから、S76遺伝子産物は血液細胞のサイトカイン応答を制御する新しい因子である可能性が示唆された。一方、骨髄細胞の動員頻度が高まっている筋変性疾患マウスで高発現する分泌性タンパク質の中から、炎症応答に関与してそうな分子として新規プロテアーゼRAMPおよびケモカインBRAKを同定した。両者とも骨格筋と脳で発現し、分化転換が高頻度におこるmdxマウス筋の再生筋に存在する。これらの分子の生体内での機能を明確にするため、我々は遺伝子改変動物を新たに作出した。上記の研究に加えて、造血幹細胞遺伝子Meis3やRunx1の新しい機能を見出し、生理的な組織再生がおこっている卵巣や子宮での分子解析も広く進めた。まだ一端が見えてきたにすぎないが、本基盤研究で得た基礎データを基にして、これらの候補分子が造血幹細胞の発生と分化転換にどのように関与しているのか、を今後明らかにしていく計画である。
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