研究概要 |
自己免疫疾患発症における自然免疫系の役割とその制御を目指して研究を行った。 1.Toll-like receptor (TLR) の役割 ヒト培養唾液腺細胞にはTLR2、TLR3、TLR4およびMyD88が発現していた。TLR3優位にシグナルを伝達するリガンドのpoly I:C刺激で、これら細胞のAktリン酸化およびNF-κB核内移行が促進され、かつ、細胞表面のCD54発現は顕著に増強された。しかしながらpoly I : C刺激はこれら細胞を活性化するのみではなくcaspase-3、-8、-9を活性化しアポトーシスも誘導した。PI3-K/Akt活性化阻害剤もしくはNF-κB活性化阻害剤を添加すると、唾液腺細胞のpoly I:C誘導性アポトーシスとcaspase活性化は増強された。シェーグレン症候群(SS)の唾液腺組織唾液腺細胞ではCD54等の細胞機能分子発現が増強されるとともにアポトーシスが亢進しており、TLRシグナルはSSの病態形成に深く関わっていることが示唆された(J Lab Clin Med,投稿中)。 2.Natural killer (NK)細胞の役割 関節リウマチ(RA)およびSS患者の末梢血中NK細胞活性は低下していたが、NK細胞1個あたりのNK活性は同等であった。RAおよびSS患者では、アポトーシスに陥っているNK細胞の割合が多く、NK細胞のアポトーシスによる細胞数減少が、NK活性低下の一因であることがわかった。さらに、生物学的製剤使用RA患者の検討では、NK細胞数低下を伴わないNK活性低下を証明した。これは、NK細胞1個あたりのNK活性低下を意味しており、自然免疫の代表であるNK細胞の活性低下はウイルス感染持続、悪性腫瘍の発生につながる可能性が示唆された(J Lab Clin Med 2006, FEBS Lett 2004)。 3.全身性エリテマトーデス(SLE)における樹状細胞の役割 SLE患者末梢血ではBDCA-2^+(形質細胞様)及びCDIIc^+(骨髄様)樹状細胞が減少していた。この樹状細胞減少が自己免疫応答誘導に関与していることが示唆された(Clin Exp Immunol 2005)。 4.バセドウ病モデルラット作成における樹状細胞の役割 AdTSHRを用いた樹状細胞免疫でバセドウ病モデルラット作成に成功し、樹状細胞の役割を解明した(J Autoimmun 2006,Clin Exp Immunol 2003)。 5.1型糖尿病モデル(NODマウス)におけるインスリンペプチドによる細胞障害性T細胞と制御性T細胞の誘導 インスリンB:9-23ペプチドとpoly I:Cを投与し、細胞傷害性T細胞と制御性T細胞を誘導し、その免疫機構を解明した(Diabetes,投稿中)。 6.HTLV-I感染による自己免疫発症機序を解明した HTLV-I感染がTax蛋白を介し、Bcl-xLを発現させ、抗アポトーシス作用を誘導した(J Lab Clin Med 2003)。また、IFN-γ産生にp38 MAPKを介していることを明らかにした(J Neuroimmunol 2005)。
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