我々は、ヒトES細胞を造血細胞へ効率的に分化誘導するためには、ヒトES細胞がたどるであろう胎生期造血を再現することが重要であると考えた。そこで、マウス胎生期の造血組織から、その造血機能の中心的役割を担っているストローマ細胞を培養し、in vitroで胎生期の造血環境を再構築し、その環境でヒトES細胞を培養することを計画した。 その結果、胎生期の主たる造血組織である胎仔肝から、ストローマ細胞を樹立することに成功した。ヒトES細胞をこのストローマ細胞と共培養すると、培養6日目頃よりヒトES細胞は分化を開始し、培養12日目頃には未分化な造血細胞が出現し、その数は次第に増加した。未分化な造血細胞の数が最大となる培養16日目頃に、培養細胞を採取し、コロニー培養すると、赤血球系コロニー、骨髄球系コロニー、混合コロニーなどの様々な血液細胞コロニーが多数形成され、これらのコロニーには、赤血球、好中球、マクロファージ、巨核球などの種々の血液細胞が含まれていた。コロニー中の赤血球には、脱核した成熟赤血球も認められた。 以上の結果は、ヒトES細胞は、マウス胎仔肝由来ストローマ細胞との共培養により、赤血球系前駆細胞、骨髄球系前駆細胞、多能性造血前駆細胞に分化誘導され、これらの前駆細胞からは、赤血球、好中球、マクロファージ、巨核球などの様々な血液細胞が産生されることを示している。本分化誘導法を応用することにより、ヒトES細胞から、輸血用赤血球、好中球、血小板の産生できると考えられた。 また、マウス胎生期造血組織由来ストローマ細胞は、ヒトES細胞と同じく、胎生期を起源とするヒト臍帯血中の造血細胞にも作用し、赤血球、好中球、巨核球ばかりでなく、肥満細胞やNK細胞への分化も誘導することができた。このことは、ヒトES細胞を用いた再生医療の新たな可能性を示すものと考えられた。
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