研究概要 |
環境汚染物質であるダイオキシン(2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin, TCDD)は、胎内曝露したラットで出生後の空間記憶能力が障害されるなど、高次脳機能発達障害の原因となる可能性が報告されている。昨年我々は、胎内でTCDDに単回曝露したマウス胎仔においては、大脳皮質の発生過程が遅滞すること、そのメカニズムは神経前駆細胞においてp27Kip1の核内移行が促進するためである可能性を報告した。TCDD胎内曝露による大脳皮質発生異常のメカニズムを更に解明するために、胎生12日において、細胞分裂、分化誘導、アポトーシスに関する定量解析を行った。 【方法】妊娠7日のマウスにTCDD(20μg/kg体重)を1回経口投与、胎生12日の胎仔前脳を用いて以下の実験を行った。1.BrdUを用いたCumulative Labeling法による細胞周期各相の測定、2.IrdUおよびBrdUの時間差投与法による分化誘導の確率(Q値)の測定、3.TUNEL染色によるアポトーシスの解析。 【成績】TCDD投与群では、神経前駆細胞のG1期が延長、Q値が増加、アポトーシスは不変であった。 【考察】妊娠7日におけるTCDD胎内曝露により、核内p27Kip1蛋白量が増加、その結果、胎生12日において、神経前駆細胞のG1期が延長、分化誘導の確率が増加することを示した。胎生14日で観察された大脳壁、特に皮質板の菲薄化は、TCDDが神経前駆細胞の分裂速度を減じ、また、早期に分化誘導が行われた結果、神経前駆細胞の総数が減少したためであると推測された。神経前駆細胞の減少にアポトーシスは関与していないことも示された。TCDD胎内曝露は神経初期発生において、神経前駆細胞の細胞周期制御機構を変化させ、大脳皮質発生異常(薄い大脳皮質)の原因となる可能性がある。
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