研究概要 |
環境汚染物質であるダイオキシン(2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin, TCDD)は、胎内曝露したラットで出生後の空間記憶能力が障害されるなど、高次脳機能発達障害の原因となる可能性が報告されている。これまでに我々は、胎内でTCDDに単回曝露したマウス胎仔の大脳皮質の発生過程が遅滞すること、そのメカニズムは胎生12日(E12)神経前駆細胞において核内p27Kip1蛋白量が増加、その結果神経前駆細胞のG1期が延長し、分化誘導の確率が増加する可能性を報告した。TCDD胎内曝露による大脳皮質発生異常のメカニズムを更に解明するために、生後21日目の大脳皮質構築異常を検討した。 【方法】妊娠7日のマウスにTCDD(20μg/kg体重)を1回経口投与、生後21日のマウス終脳を用いて以下の計測を行った。1.終脳の全長・全幅、2.大脳皮質の厚さ、3.抗GABA免疫組織化学染色切片を用いた皮質各層のGABA陽性・陰性細胞、グリア細胞数・密度。 【成績】TCDD曝露群ではコントロール群と比較し、終脳の全長・全幅が有意に減少していた。さらにTCDD曝露群では、大脳皮質層構造の異常が認められた。大脳皮質第V-VI層におけるGABA陰性細胞の減少による第V-VI層の菲薄化を認め、その結果、大脳皮質の厚さが有意に減少していた。皮質各層の細胞密度については、GABA陽性・陰性細胞、グリア細胞いずれにおいても、有意な変化を認めなかった。 【考察】TCDD胎内曝露が大脳皮質発生異常(大脳皮質の菲薄化)の原因となり得ること示した。昨年度までの研究成果とあわせて、神経前駆細胞の異常な分化誘導亢進が大脳皮質菲薄化の原因と考えられえること、細胞周期制御蛋白のひとつであり分化誘導作用を有するp27が関与していること、の2点が強く示唆された。皮質深層のGABA陰性細胞のみがTCDD曝露群で減少していたことから、TCDD曝露による分化誘導障害が投射ニューロンの前駆細胞に特異的に起こる可能性も示唆された。
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