研究概要 |
本研究の目的は、siRNA(small interfering RNA)トランスジェニックマウスを用いて、表皮においてもっとも重要な働きを持つ4種のEGF family細胞成長因子(TGF-α,HB-EGF, amphiregulin, epiregulin)の機能欠損マウスを作成し、表皮における各々の因子の特異的機能を明らかにすることである。siRNA候補配列(19塩基配列)をsiRNA選択用ソフトウエアを用いて数種類決定し、siRNA construction kitを用いて、in vitro転写でsiRNAを合成しカラムにて精製した。次ぎに、表皮細胞に候補siRNAをtransfectionし、mRNA発現を検討し、至適siRNA配列を決定した。この時、EGF刺激によるTGF-α,AR, ERのmRNAオートクライン誘導の制御の検討がもっとも適しているため、EGF刺激における各mRNAの発現をreal time PCR法、RNase protection assay法にて検討し、それぞれのsiRNAが特異的に対応するmRNA誘導を抑制しているかについて確認したが、期間内でトランスジェニックマウス作製には至らなかった。そこで、HB-EGFの表皮特異的ノックアウトマウスを用いて、HB-EGFの機能を解析した。Heparin-binding EGF-like growth factor(HB-EGF)はEGFファミリーに属する細胞成長因子であり、表皮角化細胞に対するオートクリン細胞成長因子である。創傷治癒は様々な因子が関与していると考えられているが、EGFファミリーに関しては明らかにされていない。そこで、皮膚創傷治癒過程におけるHB-EGFの機能について検討した。培養ヒト表皮角化細胞を用いたin vitro wound healingモデルではHB-EGFの中和抗体を用いると角化細胞の遊走が阻害され、HB-EGF添加により遊走が促進された。また、ScrapingによりHB-EGFのmRNAはEGFファミリーのなかで、速やかにかつ顕著に誘導された。In vivoにおけるHB-EGFの機能を検討するためにHB-EGFのノックアウトマウスを作製し、wound healing assayを施行したところ,HB-EGFノックアウトマウスでは創傷治癒の遅延が認められた。以上の結果より、皮膚創傷治癒においてはHB-EGFが重要な役割を果たしており、これら4種の細胞成長因子が特異的な作用を持つことが示唆された。
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