本年度は、配列特異的な蛍光標識オリゴヌクレオチドをブローブとするReal Time PCR法を用いて、ヒト単核球および多核球内におけるhPer1、hPer2、hPer3、Clock、BMAL1、Timeless、Cry1、Cry2、Dec1、Dec2の10種類の時計遺伝子群、及び、内部標準補正用のβ-actinの発現定量解析を進めた。測定に際しては遺伝子ごとに内標用プラスミドを作成し半定量的発現定量解析を行った。初年度に追加して、健常若年成人9名、健常高齢者6名、視交叉上核障害モデルであるアルツハイマー病患者5名を対象として、修正型コンスタントルーチン法を用いて上記の時計遺伝子転写リズム特性を評価した。若年者群及び高齢者群では、睡眠表とアクチグラフにより睡眠・覚醒リズムの規則性を確認した後に7日間の生活統制を行い、睡眠、身体機能スクリーニングに続いて、室内照度、体動、カロリー摂取、放熱環境などのマスキングを厳密に統制した環境下で覚醒直後の08時(平均入眠時刻=00時)から連続28時間にわたり各種概日リズムマーカーを連続測定した。 ヒト単核球においても上記の時計遺伝子ループを構成する主要遺伝子群すべての転写発現が認められた。hPer1、hPer2、hPer3、Cry1、Cry2、Dec1、Dec2では明期の前半期に転写リズム頂点位相が集中していた。一方、Clock、BMAL1転写には有意な概日変動は認められなかった。これらの位相特徴は齧歯類視交叉上核細胞や末梢細胞でのデータと近似していた。すなわち、生物時計からの直接的な神経投射を受けていないヒト末梢単核球もまた生物時計支配下に液性因子を介してリズム同調を受けていること、夜行性昼行性にかかわらず時計遺伝子転写リズム位相は普遍的に保たれていることが示唆された。
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