研究概要 |
本研究では,ヒトにおける神経性及び液性概日シグナルの伝達様式の多様性と概日リズム睡眠障害などのリズム同調不全時での内的脱同調の実態を評価することを目的とした.液性シグナル指標として視交叉上核からの直接的な神経投射を受けていないヒト単核球および多核球内におけるhPer1,hPer2,hPer3,Clock, BMAL1,Timeless, Cry1,Cry2,Dec1,Dec2の10種類の時計遺伝子群,及び,内部標準補正用のβ-actinの発現定量法を確立した.測定には特異的ハイブリプローブを用いたReal Time PCR法を用い,遺伝子ごとに内標用プラスミドを作成し発現定量解析を行った.修正型コンスタントルーチン法を用いてリズム特性を評価し,解析には12/24-h compositeもしくはsingle cosine modelを用いた. ヒト末梢循環白血球においても上記の時計遺伝子ループを構成する主要遺伝子群すべての転写発現が認められた.hPer1,hPer2,hPer3では暗期から明期への移行期に転写リズム頂点位相が集中し,Clock転写には有意な慨日変動は認められかった.これらの転写特性は夜行性動物である齧歯類における視交叉上核細胞や末梢細胞での転写特性に近似していた.また,単核球および多核球では末梢循環数や細胞機能リズムのピーク位相が異なるにもかかわらず,両分画細胞ともに各遺伝子位相は同一位相を示した.さらに,単核球および多核球内hPer1転写リズム位相は神経性シグナル指標であるメラトニン分泌リズム位相との間に高い正の相関を示した.すなわち,生物時計からの直接的な神経投射を受けていないヒト末梢単核球もまた生物時計支配下に液性因子を介してリズム同調を受けていること,夜行性昼行性にかかわらず時計遺伝子転写リズム位相は普遍的に保たれていることが示唆された. 健常若年被験者及び60代健常被験者管での比較により,生理機能リズム及びSCNからの直接的な神経投射を受けない末梢循環単核球におけるhPer1,hPer2,hPer3転写リズムの同調位相に有意な年齢群間差が生じていなかった.すなわち,少なくとも同調生活条件下における60代までの健常者では液性概日シグナルによる末梢時計の同調能力が若年群と同程度に安定保持されていることが示唆された.非24時間睡眠・覚醒症候群患者におけるフリーラン経過中のメラトニン分泌,深部体温,及びhPer群の転写リズムの解析から,神経性概日シグナル支配下の各種生理機能リズムと液性支配下の末梢時計との間に多様な同調及び脱同調様式が存在する可能性が示唆された.
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