研究課題
基盤研究(B)
当研究は、2つの要素からなる。そのひとつは、放射線治療を受ける腫瘍細胞ひとつひとつが相互作用しながら、癌全体を複雑系としてとらえ、これが放射線によりどう変化するか、ということを2次元セルオートマトンシミュレーションである。研究分担者大内がまず腫瘍細胞の細胞免疫に関して解析し、腫瘍細胞と細胞毒性Tリンパ球(CTL)の接触は腫瘍細胞を免疫的に排除するために重要であることが示された。研究代表者は放射線治療効果の系として、同腫瘍免疫系モデルを利用した発展を考え、免疫系の細胞間反応と放射線治療後の反応系の違いに対するロジックとパラメーターの検討が必要であると結論した。もうひとつは、実際の患者の放射線治療前後の腫瘍部位の3次元CTとMRI画像上の計時的変化を追い、そのデータベースを作成し、これに基づき、有限要素法を用いて腫瘍の縮小率を3次元的に予想し、グラフィックに可視化した。放射線生物学で確立しているLinear-quadratic modelや細胞turnoverに必要な時間を加えたモデルを構築し、単に腫瘍体積の縮小率を予測するだけでなく、対応する各点の3次元座標を持たせることで、実際の放射線治療において縮小中の腫瘍の形態に合わせた放射線治療を可能とした。子宮頚癌では、放射線治療途中のMRIの腫瘍体積からその後の腫瘍体積の減少を、3名の実際の患者データをもとに予測し、理論値と実測値のかなりの一致を見た。これらの方法は、特許申請中で、最終結果を論文投稿中である。それらのデータを実際の治療に利用するには、腫瘍の呼吸性の動きなど"速い"動きに対する検討が必要であるため、動体追跡装置を用いた多くの研究を行い、新たな知見を発表した。今後、複雑系としての腫瘍細胞の振る舞いと、腫瘍全体の振る舞いの間にあるギャップを如何に埋めるか、という問題が残されているが、分子イメージング法の発展により、その融合が期待される。
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