研究概要 |
1)冠動脈攣縮モデルの作成と冠動脈攣縮の可視化 ラット摘出心によるランゲンドルフ灌流装置において、放射光冠動脈造影を行った。電位依存性Kチャネル阻害剤(4-aminopyridine:4-AP)を10mM/L含む灌流液で5分間冠灌流を行うと、成熟した雄性ラットの心臓では、高率に冠動脈攣縮が出現した(出現率70%、n=10)。再灌流10分後の冠動脈造影ではすべて冠攣縮は解除されており、4-APを用いた新しい冠攣縮動物モデルの作成が確認された。冠攣縮については、様々な要因が考えられているが、1)血管内皮細胞障害(NO障害)、2)血管平滑筋細胞の過剰収縮刺激(カテコラミン等の収縮物質)、3)血管平滑筋細胞の過敏性(Rho kinase)に分類される。最近、Kチャネルの異常(K_<ATP>チャネル、Kirチャネル)の関与も報告されるようになった。今回電位依存性Kチャネル(Kvチャネル)の阻害剤の使用で高率に冠攣縮が誘発されることが確認されたことにより、冠攣縮の機序の1つとして、Kvチャネルも考慮しなければならないことが、初めて示された。 2)雌性ラットにおける冠動脈攣縮の悪化 女性の虚血性心疾患の特徴として、閉経後にその頻度が増大することが上げられる。心血管系においてはエストロゲンの血管保護効果が失われることが、閉経後の虚血性心疾患の増加と密接に関連していると考えられている。今回、雄性ラットと同様のKvチャネル阻害(4-AP)を雌性ラットに行い、Estrogen依存性に冠動脈トーヌスを維持していた環境より、Estrogen非含有灌流液に変えて同様の冠攣縮誘発試験を行い、Estrogen除去による冠攣縮への影響を調べた(n=17)。その結果、雌性ラットでは、4-AP使用前に既に冠攣縮を24%発生させ(雄性ラットは0%)、4-AP負荷時の冠攣縮発生率は94%であり、さらに4-AP灌流終了15分後においても、冠攣縮残存率は65%であった(雄性ラットは0%、p<0.05)。これにより、雌性ラットでは、エストロゲンの急性喪失が冠攣縮の増悪と関連することが示された。 3)G-CSF投与による血管新生の研究 G-CSFは顆粒球コロニー刺激因子である一方、骨髄外での血管内皮細胞の移動と増殖に深く関与することが報告されている。我々は、ラットの急性心筋梗塞モデルを作成し、血管新生を放射光を用いた冠動脈造影で検討することを立案した。ラット左冠動脈前下降枝遠位部を結紮し、5日間G-CSFを皮下注し、2,4,8週目に新生血管の性状を放射光画像にて検討する。平成15年度3月〜平成16年度6月までの期間で、研究実施中である。
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