研究概要 |
われわれは、FHIT遺伝子を同定し、飲酒喫煙という体外の環境因子暴露により変異を来す新しいタイプの癌抑制遺伝子であることを報告した。癌抑制遺伝子FHITのカスケードを解明する上で、生体内外の発がん環境因子とくに"炎症"に対して、どのような機構が存在するのか、その機序解明が待たれている。本研究費を獲得して、特に大腸発癌において重要と考えられる、炎症の主体的因子COX2/PGE2経路についてFHITとの関係を調べた。さらにFHIT発現により変異を来す遺伝子群を包括的に解析し特徴的な遺伝子群のうち発癌・癌進展において重要な分子機構を同定した。 1)炎症反応とFHIT:(1)臨床検体における免疫染色法:大腸発がん進展において重要な役割を担う、生体内癌関連遺伝子の一つであり、Cox2とFhitとの関連について大腸癌62例において免疫染色法にて調べた。結果Cox2陽性症例のうちFhit(-)症例はFhit(+)症例に比してDukes病期と深達度において有意に高い悪性度を示すことを明らかにした。(2)大腸癌株に対して遺伝子導入によるFHIT強制発現株と非発現株、およびRNAiによるFHIT発現抑制株と発現株とにおいて、炎症を惹起したところ、FHIT低発現状態においてPGE_2の産生能が高まり(ELISA)、癌細胞の細胞増殖能が益していた(MTT assay)。 2)上記内容をさらに明らかにするために、Ad-FHITの導入によるapoptosisの誘導株と非誘導株間における遺伝子発現の差異を包括的に解析して、抗腫瘍効果を発揮する場合において特徴的な遺伝子群を同定した。Apoptosisを誘導しうる株化細胞で有意に発現上昇していた遺伝子としてc-Src, JAK-1,EGFR等を認めた。 以上より癌抑制遺伝子FHITが、PGE2を介した炎症に起因する発癌機構を分子標的として制御しうることが期待された。
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