生体内に第二の肝組織を作製することにより新たな肝疾患治療法の開発を行うことを最終目的として、研究を遂行した。肝組織の手法として、我々は、分離した成熟肝細胞を肝臓外部位に移植し、その肝細胞を長期生着させることを第一目標とし、それら肝細胞により自ら組織を作製させる手法をとった。しかしながら、分離肝細胞を肝臓外部位に移植した場合に、それら肝細胞の生着率は極めてひくく、かつその生存期間は世界的レベルにおいても数週間と極めて短期間である。本研究においては、組織作製を皮下に行うことを目標とし、組織作製局所環境を如何に整備するかに着目し、肝細胞が皮下において長期間生着し得る手法を開発することを第一目標とした。 平成15年度は、組織作製皮下局所において血管ネットワークを整備することが可能なデバイスの作製を行った。様々な工夫の結果、ポリエチレンテレフテレートのメッシュをバッグ状にし、その中に低融点ゲルに溶解した血管内皮細胞誘導因子を充填することで徐放デバイスを作製した。 平成16年度は、マウスの実験系において、前年度に開発したデバイスを用い、皮下に血管ネットワークを作製し、その局所に肝細胞と細胞外マトリックスを混合し移植した。そのことにより、皮下移植肝細胞は200日以上の長期間生着し、血管網を伴う肝組織作製に成功した。 平成17年度は、マウス皮下に作製した肝組織の機能解析を行った。antitrypsin、albuminや凝固因子の産生などの観点から、自己肝と同等の肝機能を発揮することを確認した。さらに、phenobarbital等の薬剤をマウスに投与した場合、作製肝組織はこれら薬剤と取り込む能力と酵素誘導により薬剤の代謝能力を有していた。さらに、同手法によりラットを用いた実験系においても皮下組織作製に至った。 以上の結果より、小動物モデルを用いた系において、皮下という最も臨床的アクセスの容易な部位に、安定かつ機能的な肝組織を作製する手法の開発に成功した。
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