研究概要 |
本研究では,ヒト大腸癌の悪性度に影響をおよぼすβ-カテニンがん化シグナル特異的活性化の分子機構をがん病態との関連から個別的ならびに網羅的に究明し,得られる成果を大腸癌の発生進展過程の解明と診断・治療に応用することを主目的とする.一連の解析から得られる知見に基づいて,大腸癌の悪性度や予後の分子診断法を開発することも目指している. 本年度は,細胞内におけるβ-カテニンの生理的発現やがん化シグナル伝達活性化機構に関与する可能性のある分子群を個別的に対象にして,大腸癌における発現や動態をβ-カテニンの活性化パターンと比較検討した.β-カテニンがん化シグナル制御の本質はユビキチン分解系に依存することから,そのユビキチン化制御因子の大腸癌における動態をβ-カテニンの特異的活性化パターン(腫瘍金体vs.浸潤先進部)やがん病態との関連から検討し,以下の知見を得てきた.β-カテニンとそのチロシンリン酸化に関わるrasはそれぞれindependentに活性化されていたが,両がん化シグナルが同時に活性化されている大腸癌(全症例の約10%)は極めて悪性度が高いことを見出した.β-カテニンとIκBα(inhibitor of NF-κB)を認識するβ-TrCP(β-transducin repeat-containing protein)E3ユビキチンリガーゼ受容体の発現は大腸癌において亢進し,β-カテニンとのnegative feedbackによる生理的な制御機構が破綻していた.その結果,β-カテニンがん化シグナルとNF-κB(nuclear factor-κB)シグナルを統御(integrate)することにより,大腸癌の進行と悪性度や臨床病態に影響を及ぼすことを解明した.以上の成果から,β-カテニンの特異的活性化・制御に関わる分子機構を明らかにすることは大腸発がん・進展の解明と,その病態診断や標的治療法の開発に分子基盤を提供するものと期待される.
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