研究概要 |
生体肝移植では、細胞性免疫で主要な役割を演じるT細胞の細胞数が術後に激減し、移植抗原に対して無反応(アナジー)性になっている時期があり、これが重篤な感染症を含めて、種々の合併症を発生する要因となっている。本年度は22名の患者(3名は死亡)で、移植直後の拒絶を引き起こしている時期から、T細胞数が正常範囲に回復するまで、メモリーT細胞、ナイーブT細胞、エフェクターT細胞の動態とBCL-2 mRNAの発現量をしらべた。その結果、移植後、T細胞数は全患者で減少し、12時間以内にT細胞のBCL-2 mRNA量が増加していた。その後のT細胞数回復はBcl-2 mRNA量の減少と逆相関していた(r=-0.77)。T細胞数の回復過程の解析から、患者は10日以内に細胞数が正常にもどるグループ(I群:7名)と、正常に戻るのにさらに長期間が必要なグループ(II群:12名)の2群に別れた。フローサイトメトリーによる解析で、I群ではT細胞数の増加は主に胸腺で新生したT細胞によるものであった。一方、II群での、遅延した細胞数増加は主に末梢のT細胞が増殖することによるものであった。術後に患者のT細胞数が正常に戻るまで、感染を防がなければならない。今回の実験で、T細胞のBcl-2 mRNAの量を測定することが免疫寛容の遷移を知る上でよい指標になることが判明した(論文投稿中)。 同時に、移植患者の1114検体(約100症例)を採取し、移植後のT細胞の変化をCD45,CD69,CD27,CD28,INF-γ,TNF-α等のマーカーの発現の違いから調べている。現在、ほぼデータをとり終えて、解析を始めている。移植を受ける患者が、術前に移植後どのようなタイプの免疫応答を示すか予測することが可能であることを示す結果が得られている。
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