研究概要 |
本研究では膵発生・分化機構に関わる分子を解明し,この分子が膵癌の発生,進展に関与しているかを検討し,膵癌の診断治療に有用な情報を得ようとした.マウス胎生期膵組織である膵原基をe9からe18の時期に分離調製し,分離した膵原基をコラーゲンIゲル,マトリゲル内で3次元培養することに成功した.この系を用い膵発生分化におけるレチノイン酸の意義を検討した.レチノイン酸の代謝関連分子であるレチノイン酸合成酵素RALDH 2がe11.5,e13.5の時期に膵原基mesenchymeのみに発現していること,レチノイン酸結合蛋白であるCRABP IIもmesenchymeのみに発現していること,レチノイン酸受容体の抑制作用があるCOUP-TF IIもmesenchymeに発現していることを明らかにした.このことからレチノイン酸がmesenchymal factorであり,その合成がmesenchymeで行われ,主にparacrineとして作用していると考えられた.一方膵原基3次元培養でレチノイン酸を外因性に投与すると,導管上皮細胞と内分泌細胞の増加と腺房細胞の減少が観察された.レチノイン酸外因性刺激で膵原基にはPdx-1の発現増強が観察された.また膵腺房の構造変化にはアポトーシスが関与していた.以上から,レチノイン酸が膵の発生・分化制御に重要であることがあきらかになった.
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