研究概要 |
研究目的:新規MMP制御遺伝子RECKの原発性肺癌組織における発現を調べその臨床的意義を明らかにし,肺癌治療への応用の可能性を探る。 研究方法:ウエスタンブロット法およびリアルタイムRT-PCR法により肺癌腫瘍組織部分と正常肺部分のRECK蛋白,遺伝子発現を調べた。さらに約200例の非小細胞肺癌臨床サンプルを用いて,RECKの発現様式と他の生物学的因子との関係,個々の症例の背景因子との関連を免疫組織染色を用いて臨床病理学的に検討した。 結果と考察:1)RECKの遺伝子発現・蛋白発現とも正常肺部分に比べ肺癌部分で顕著に低下していることを見出した。2)RECK発現とp53や腫瘍増殖係数,アポトーシス係数との間に相関を認めなかった。3)RECKの発現と腫瘍血管新生の間には負の相関を認め、特にRECKはVEGFにより誘導される血管新生を抑制していた。さらにRECKの発現とMMP-2,9,14発現の間には有意な相関を認め、RECKの血管新生抑制の作用機序の少なくとも部はMMP制御によって行なわれていると考えられた。4)RECK発現の低下している腫瘍では、有意に予後不良であった。予後との相関に関しては、早期肺癌症例では認められないのに対して、進行期肺癌,特に縦隔リンパ節転移陽性N2症例において顕著であった。したがってRECKは進行肺癌における治療や診断のマーカーとして有用である可能性が示唆された。 結論:肺癌組織におけるRECK発現低下を認めた。また非小細胞肺癌組織においてRECK発現低下が予後不良因子であることを示した。特に進行肺癌症例における治療や診断のマーカーとして有用である可能性が示唆された。また臨床サンプルにおいてもRECKの血管新生抑制作用が示されたことから,新たな肺癌治療における分子標的となる可能性がある。今後,1)遺伝子レベルでRECK発現とMMPを含む他の生物学的因子および臨床病理学的因子との関係を確認し,2)in vitroでのREC遺伝子導入の効果検討から,in vivoにおけるRECK導入による抗腫瘍効果,血管新生抑制効果の検討を行なっていく予定である。
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