胸部大動脈瘤手術中の脊髄虚血障害の術中迅速診断法と脊髄虚血障害予防法の確立のために、以下の動物実験と臨床試験を行った。 動物実験: (1)脊髄虚血障害モデルの作成:ビーグル犬を用いた脊髄虚血障害モデル(下行大動脈の単純遮断による脊髄虚血モデル)にて、脊髄虚血障害を2種類の脊髄誘発電位(運動誘発電位および知覚誘発電位)でモニターして、脊髄虚血障害による脊髄誘発電位の変化パターンを確認して、実験のコントロール群を確立した。同時に同じ条件下で脊髄虚血障害の起こる椎骨動脈圧が一定となり確実に脊髄虚血障害ができる実験モデルを確立した(J Vasc Surg投稿中)。 (2)脊髄保護液の開発:冷却生理食塩水(4℃)、リドカイン含有生理食塩水(36℃、および4℃)の脊髄保護液を遮断した胸部下行大動脈に注入して、脊髄誘発電位の注入後の変化を観察した。冷却生理食塩水による運動誘発電位の変化を確立した。 (3)脊髄冷却パッドの作成:長楕円形の塩化ビニールのパック内に生体毒性の低い保冷材を密封して、-20℃に冷却して、直接脊髄骨に接触して脊髄温がどのように低下するかを観察した。また、脊髄温の低下による脊髄虚血障害防止効果をビーグル犬を用いた脊髄虚血モデルで確認した。 臨床試験:胸部下行大動脈瘤または胸腹部大動脈瘤手術中に、遮断した大動脈瘤に冷却血液を注入し、脊髄運動電位が一過性に低下することを確認して、脊髄虚血の責任肋間動脈の局在診断法とした。
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