研究概要 |
これまでの研究で,髄膜炎やくも膜下出血後の交通性水頭症の発生には髄腔内で炎症性サイトカインの一つであるTGF-β1が重要な役割をしていることを臨床的に明らかとした。剖検例の研究ではくも膜下腔やくも膜顆粒の繊維化が原因と考えられている。実際にヒト型リコンビナントTGF-β1をマウスの頭蓋内に注入すると交通性水頭症ができることも証明し,その組織学的検討でもヒトの交通性水頭症ときわめて類似したくも膜下腔の繊維化が明らかだった。 HGFはTGF-β1と組織の繊維化に関して正反対の作用をもつサイトカインである。そこで、HGFを用いてくも膜下腔内の繊維化を減少させれば水頭症が治療できるのではないかと考えてこの実験を計画した。小財教授から提供されたHGF遺伝子を封入したリコンビナントアデノウイルスを脳室内に注入した実験では以下のことが明らかとなった。1990年代の研究でアデノウイルスを脳実質内に注入した場合,遺伝子は長期間にわたって脳内に存続することがわかっている。我々がリコンビナントアデノウイルスを脳室内に注入したところ短期間で激烈な脳炎と脳室炎を続発した。これより,脳室内にウイルスを投与する場合と脳実質内にウイルスを投与する場合,脳の免疫反応が明らかに異なることがわかった。これは我々の実験には否定的な結果だが,今後の神経系の遺伝子治療に関しては重要な知見であるので成果を論文として公表した。 中村教授から提供されたヒト型リコンビナントHGFでは1匹あたり30μgを1週間または2週間注入した場合、悪化していた空間認識能が改善したり,大きくなっていた脳室の大きさに改善が見られた。この成果は現在投稿中である。 またこの実験を遂行するにあたり開発した実験動物を病院のMRIで安全かつ無菌的に撮影する技術についても論文として公表した。
|