研究概要 |
髄膜炎や頭蓋内出血に続発する水頭症の発生に炎症性サイトカインのtransforming growth factor-β1(TGF-β1)が重要な役割を果たしている。Hepatocyte growth factor(HGF)はTGF-β1に拮抗し,繊維化した組織の再生を促す作用がある。平成15年度科学研究費によるわれわれ研究でrecombinant HGFを我々が開発したマウス水頭症モデルに投与し、水頭症が治療できることを証明した。平成16年度は,adenovirusにencodeしたHGF geneを髄腔内に接種して、水頭症マウスを治療する遺伝子治療モデルの研究をまとめた。遺伝子のDelivery systemとしてHGF遺伝子をコードしたAdenovirusを共同研究者の小財健一郎博士より供給された。ウイルスの力価は小財博士によって測定された。β-galactosidase encoded Adenovirusを側脳室内に注入し、遺伝子導入をうける脳表の範囲を測定した。 リコンビナントアデノウイルス2.6x10^7 pfuを脳室内に注入した。標識遺伝子の発現は急速に低下して、7日目には消失した。組織を調べてみると脳室周囲を中心にリンパ球が脳実質に瀰慢性に浸潤して脳室の上衣細胞が消失していた。これより、標識遺伝子が急速になくなった理由はウイルスに感染した上衣細胞がリンパ球に攻撃されて、欠落したためであることがわかった。脳室拡大が進行して,脳実質には浮腫が著しく、脳炎といえる状態だった。乏突起膠細胞にはアポトーシスがみられ、髄鞘には著しい変性が見られた。このように、脳室内にアデノウイルスを注入した場合には脳実質内に注入した場合と明らかに異なる免疫反応が見られた。たとえリコンビナントであっても、ひとたびウイルスが髄液腔内に侵入した場合には、これらの細胞からの情報が直ちに頚部リンパ節を始め体の免疫細胞に伝えられて強力な免疫反応が引き起こされたのである。以上よりアデノウイルスはこの治療に不適であることがわかった。
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