虚血性ニューロン死発生の最初期過程においては、脳虚血中に濃度上昇する細胞外グルタミン酸がニューロン死発生の因子として重要な役割を担っていると考えられている。通常、細胞外のグルタミン酸濃度はグルタミン酸トランスポーターによって調節されており、それゆえ、虚血中に観察される細胞外グルタミン酸濃度上昇過程にはこのトランスポーターが重要な機能を果たしていると考えられる。本年度は、グリア細胞型グルタミン酸トランスポーター(GLT-1)ノックアウトマウスを用いて、虚血性グルタミン酸濃度上昇機構におけるGLT-1の機能を明らかにした。マイクロダイアリシスプローブをGLT-1ノックアウトマウスおよび野生型マウスの脳循環障害に対して特に脆弱な脳領域として知られている海馬CA1野にそれぞ挿入し、虚血中の細胞外グルタミン酸を透析し、測定した。その結果、脳虚血開始後5分間は、ノックアウトマウスの虚血性細胞外グルタミン酸レベルは野生型マウスのそれと比べて有意に高値になった。また、ノックアウトマウスの海馬においてのみ遅発性ニューロン死が観察された。虚血開始10分以後は逆に、ノックアウトマウスの虚血性細胞外グルタミン酸レベルは野生型マウスのそれと比べて有意に低値になった。急性ニューロン死がノックアウトマウスおよび野生型マウスの海馬に観察された。これらの結果から、GLT-1は虚血初期(5分間)には正常に機能し、ニューロンに対して保護的に作用しているが、そ以降(虚血開始10分以後)はグルタミン酸の逆輸送を行い、ニューロン死発生を増悪させている可能性が示唆された。
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