研究概要 |
本研究では前年度に引き続いてレーザーマイクロダイセクションによる変形性罹患軟骨(以下OA軟骨)の解析を進めた。昨年までに得られた結果を詳細に解析したところ、OA軟骨においてファイブロネクチンとIII型コラーゲンのmRNAの発現がよく相関していることを見出した。関節軟骨細胞では種々のインテグリンが発現しており、細胞の機能と密接に関連していることが知られている。ファイブロネクチンはα5β1インテグリンのリガンドであるため、OA軟骨におけるファイブロネクチンの蓄積はこのインテグリンを介して軟骨細胞に対し何らかの機能的な変化をもたらしている可能性が考えられた。この仮説に基づいてヒト由来の一次培養関節軟骨細胞に対しα5およびβ1インテグリンに対するsiRNAをelectropoirationにより導入したのち、細胞を単層培養で維持して軟骨細胞のマトリクス因子の発現を観察したところ、培養に伴って誘導されるIII型コラーゲンの発現が2種のインテグリンいずれに対するsiRNAによっても低下することが明らかになった。このことからOA罹患軟骨ではファイブロネクチンが誘導され、これがα5β1インテグリンを介して軟骨細胞にIII型コラーゲンの発現を誘導する可能性が考えられた。 またマトリクス関連遺伝子の解析に引き続いてマトリクス合成の際に関与する酵素の発現を検討したところ、プロテオグリカン合成に関与するChondroitin6-sulfotransferase、Chondroitin4-sulfotransferase-1,2、GalNAc(4SO_4)6-sulfotransferase、Chondroitin synthase-1,2の発現を検討したが、これらのmRNAの発現レベルはOA罹患軟骨においても正常軟骨と同等または亢進しているという結果を得た。ついでコラーゲン線維間の架橋形成に重要であるlysyl oxidaseの発現を調べたところ、この発現レベルはOA軟骨においてとくに軟骨変性部の近傍で低下する傾向が見られた。前年度までの研究からOA罹患軟骨においてコラーゲンの産生は全般に亢進していることが明らかとなっているが、lysyl oxidaseの活性低下に伴って架橋の形成が不十分となり、この結果軟骨基質の質が低下していく可能性が考えられた。
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