研究概要 |
本年度は、脳、延髄スライス標本を用い、蛍光指示薬による高速細胞内遊離カルシウムイオン(Ca^<2+>)画像解析の実験系の構築を行った。画像計測システムは、カメラ画素数1.7万で時間分解能0.6ms(最小)、または画素数24万で時間分解能0.1ms(最小)のいずれかのシステムを用いた。成熟マウス(生後8週以降)の大脳、延髄のスライスを蛍光性細胞内カルシウム指示薬Rhod-2で細胞内染色して測定用標本とし、電気的刺激パルスにより誘発された標本の蛍光画像を0.5〜5msごとに連続的に記録し、細胞内カルシウム画像を、サブミリ〜ミリ秒レベルで記録した。大脳皮質IV、V層への単一刺激(100μA,100μs)では、刺激から数ms後に刺激部位近傍に、さらに数ms遅れてII、III層で細胞内Ca^<2+>濃度上昇が観察され、II、III層でCa^<2+>上昇は数十ms以上持続した。高頻度刺激(100μA,100μsで100Hz,30回)を加えると、刺激中のCa^<2+>上昇が刺激後さらに増大し、数秒間高いCa^<2+>レベルが持続した。この高頻度刺激による大脳皮質のCa^<2+>上昇はNMDA受容体拮抗薬MK-801により抑制され、NMDA受容体の活性化が要因となっていることが示唆された。延髄においても、辺縁層神経線維束への電気刺激は膠様質における細胞内Ca^<2+>上昇させた。これらのCa^<2+>濃度上昇の領域は、既に観察してきた膜電位画像における興奮伝搬の領域に一致しているが、時間的経過はCa^<2+>濃度変化が電位変化に比較して遅く、刺激前のレベルに戻るには、数百ms〜数秒を要することが,画像解析からも裏付けられた。また、現在はRhod-2による蛍光強度変化から細胞内Ca^<2+>濃度を求めるため、fura-2による測定結果を基準に蛍光強度変化を較正して、細胞内Ca^<2+>濃度を間接的に定量しているが、その精度の向上が計測上の課題である。
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