研究概要 |
腎癌の悪性度に関連した主要なガングリオシドであるstage-specific embryonic antigen-4(SSEA-4)の合成酵素が、シアル酸転移酵素のST3Gal IIであることを見いだした。ST3Gal II mRNAレベルは、ノーザンブロッティング上、調べた腎癌細胞株8種類中7種類で高く、同一の症例で正常腎と比較できたヒト腎癌組織6例中6例で増加していた。このことから、ST3Gal IIは腎の癌化に関連しているものと考えられた。さらに、腎癌27例を用いて定量的PCRで検討したところ、27例の殆どで正常部に比してST3Gal IIのmRNAレベルの増加が認められた。また、ST3Gal IIに対するantisense-cDNA(AS)をtransfectした細胞ではRT-PCRでmockに比して約20%の抑制を認め、siRNAを導入した細胞ではdisordered siRNAに比して約70%発現が抑制されていた。ST3Gal IIの発現レベルを抑制することで、薄層クロマトグラフィー上MSGb5の発現が抑制された。MSGb5低発現の細胞はコントロール細胞に比して増殖能・浸潤能ともに有意に低下した。また、Nude miceにASとmockを導入した細胞を皮下注入して腫瘍系を測定したところ、mockでは有意に腫瘍サイズの増大を認めた。 われわれが腎癌においてその発現を確認した糖鎖抗原であるRM2抗原(モノクローナル抗体RM2の認識抗原)は、最新のNMR技術により新規の糖鎖であるβ1,4-GalNAc-disialyl Lc4であり、極めてユニークなハイブリッド構造をしている。多数例の腎細胞癌の凍結切片で検討したところ、RM2抗原は114例中、15例(13%)において陽性であり、それらのうち、初診時転移がみられたのは9例、経過中に2例の計11例に転移がみられ、悪性度に強く関連していた。さらに、RM2抗原の構造上の特徴が前立腺癌の生物学的な特徴を反映していると考えられたため、組織免疫学的な検討を行ったところ、前立腺癌ではRM2抗原は良性腺管では発現しないか発現レベルが弱いこと、HGPINでは同一症例で比較した場合、RM2抗原発現レベルは癌部に比して弱いこと、前立腺癌の悪性度(Gleason pattern)を反映して発現が高くなること、特にGleason pattern 3と4ではその発現レベルに明らかな違いがあることが判明した。さらに、RM2抗原の高発現群では、低発現群に比して5年PSA無再発生存率が有意に低かった。
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