研究概要 |
主題(1)上皮-間質の相互作用という観点から考える扁平上皮化生の誘導メカニズム 我々は、エストロゲンの作用により誘導されるマウス前立腺の増殖性病変(扁平上皮化生)において細胞増殖因子の1つであるTGFαが過剰発現していることを見出した。そこで、マウス前立腺上皮由来の培養細胞株を用いて、細胞増殖率に対するエストロゲン、TGFαの影響を男性ホルモンであるジヒドロテストステロンと比較検討した。48時間処理の結果、10^<-9>Mエストロゲンは120%、2ng/mL TGFαは140%に増加させたが、10^<-8>Mジヒドロテストステロンによる影響は認められなかった。また、エストロゲンによるphospho-ERK1/2の発現量増加は、TGFαと比較すると非常に弱いものであった。以上の結果より、上皮細胞内では、直接的なエストロゲンの刺激によりERK1/2を介したシグナル伝達が起こるものの、上皮細胞内TGFαの誘導および扁平上皮化生の誘導には、間質細胞からのパラクライン因子が強く関与している可能性が示唆された。 実験(2)血管新生におけるPSAの役割-促進因子or抑制因子?- 近年、前立腺癌の血清中マーカーである前立腺特異抗原(Prostate-specific antigen, PSA)が血管新生を抑制する、という報告が相次いでいる。しかし、マウス腎皮膜下移植モデルにおいてアンドロゲン依存性であり、PSAを分泌するLNCaP細胞は血管腫に似た腫瘍を形成した。逆に、アンドロゲン依存性がなくPSAを分泌しないPC-3,DU145細胞が形成する腫瘍内には、ほとんど新生血管が認められない。また、細胞増殖マーカーであるKi67の発現インデックスを比較するとLNCaP細胞が最も低いため、PC-3,DU145細胞では発現していない血管新生促進因子の高発現、抑制因子の低発現が考えられる。これらの検討と平行して、限外希釈法により得られたPSAの分泌量が異なるLNCaPの亜株を樹立したので、更なる検討が遂行可能である。
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