研究概要 |
卵巣癌は女性性器に発生する悪性腫瘍のうちで最も予後不良の疾患であり、患者の予後向上のためにはまず卵巣癌細胞の播種性転移に関与する分子を標的とする新しい治療法の開発が必要である。本研究の目的は、卵巣癌の播種性転移の分子機序におけるE-cadherinの発現低下、および低分子量GTP結合蛋白Rhoの役割を解明した上で、これらの分子をターゲットとした新しい分子標的治療法の開発を行うことにある。 卵巣癌細胞が腹腔内へ播種性に転移する過程で癌細胞は低酸素環境に対する適応能力を獲得し、低酸素環境そのものが癌の進展に関与する可能性がある。そこで、低酸素という環境因子に着目して検討したところ、低酸素は転写抑制因子であるSnailの発現を介して接着因子E-cadherin発現を低下させ、その結果として癌細胞の原発巣からの遊離を促進していることが明らかとなった。また、細胞の運動・遊走能に関与する低分子量GTP結合蛋白質Rho(A,B,C)のmRNAおよび蛋白発現を卵巣癌で解析したところ、早期癌よりも進行癌で発現が高く、さらに原発巣よりも播種性転移巣で発現が有意に亢進していた。さらに、卵巣癌培養細胞においてRho発現を亢進させるとin vitro浸潤能およびin vivo播種性転移能が増強し、逆に抑制すると浸潤能も低下するという事実を初めて見出した。以上より、Rhoは卵巣癌転移治療の分子標的候補としてきわめて有力である。ヌードマウスモデルを用いて、Rho活性化を抑制するstatinを経口投与したところ、播種性転移を若干抑制するというpreliminaryばデータも得られ、このRhoを分子標的とする新しい卵巣癌治療をさらに確立していく必要がある。
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