研究課題
基盤研究(B)
耳鳴は難聴患者にしばしばみられる難治性の疾患である。耳鳴の主な原因は蝸牛神経の異常発と考えられてきたが、近年のPET (positron emission tomography:ポジトロン断層撮影法)等を用いた脳科学的研究により、中枢神経系も耳鳴に関与することが示された(Giraudら,Lockwoodら,Mirzら)。これらの研究では、リドカイン静注やマスキングノイズ提示による耳鳴の一時的な減弱効果を用いて、耳鳴時の脳血流変化を視覚化した。一方、マスキングノイズを提示した後に停止すると、ノイズ音の停止後しばらくの間も耳鳴が減弱することが知られ、耳鳴の後抑制と呼ばれる(Okusaら)。後抑制は、マスキングノイズとは異なった機序で耳鳴を抑制していると考えられているが(Tonndorf)、その中枢神経機構の検討は行われてこなかった。さらに、人工内耳患者という、高度難聴を罹患し耳鳴を高頻度に訴える患者群における耳鳴の中枢機構の解明も行われてこなかった。今回の研究では、人工内耳患者において耳鳴の後抑制に関与する中枢神経系をPETを用いて解析した。まず、大阪大学耳鼻咽喉科にて人工内耳手術を受けた患にアンケートを配布し、PETによる検討に適した後抑制効果をもつ患者を選択、同意の得られた3名について検査を行った。検査では、ノイズ音を停止した直後(後抑制時)、およびノイズ音を止めて時間が経った状態(耳鳴時)の2条件における脳血流をPETにて測定した。同時に、耳鳴のない健常被験者6名においても同様の測定を行い、結果を比較した。健常被験者においてはノイズ音提示直後および時間が経った状態における脳血流に有意な差を認めなかったが、人工内耳患者においては耳鳴時に小脳の、後抑制時に右側頭葉前部の血流増加を認めた。注意・記憶に関する中枢神経機構が耳鳴の後抑制に関与することが示唆された。
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