眼球運動の自由度を減少させ、その制御の複雑さを回避するための機構として、リスティングの法則が存在する。すなわち、眼球は、眼球中心を通り視軸に直角に交わる平面(リスティング面)内にある任意の線を軸として起こる。この法則は、覚醒時の眼球運動に適応されるが、前庭性眼振はこの法則に従うのか不明である。それを解明することが今回の研究の目的であるが、これは単に眼球運動の生理的意味を知るだけでなく、病的意味を含めた前庭性眼振の意義を理解することに結びつく。眼球の正確な解析を無侵襲に行うには、ビデオ画像を三次元解析する方法が優れている。しかし、一般のビデオ画像はsamplingが30Hzであり、眼球の急速な運動(サッケード)の解析はできない。そこで、はじめは研究開発を進めてきた4倍速CCDカメラ(120Hz)を用いて研究を行い、一定の成果を上げることができた。しかし、このカメラでもサッケードの解析には不十分で、次にsamplingが240Hzの高速度CCDカメラを用いてシステムを構築した。このカメラはある程度の重量があるために、被検者の頭部に固定することはできず、台座に固定したカメラに被検者の頭部(眼球)を固定する方式を採用した。これによって、サッケードの解析が十分可能なことが実証され、健常者のサッケードがこの記録解析システムによってリスティングの法則に従うことも証明された。最終的には、頭部固定のまま被検者の外耳道を冷水によって刺激し、誘発した温度眼振(前庭性眼振)を記録解析した。これによって、代表的な前庭性眼振である温度眼振の急速相(サッケードの一種)とリスティングの法則との関係が明らかになりつつある。
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