研究概要 |
本研究では糖尿病網膜症の発症に関与する転写因子の同定、その制御による治療法開発を目指している。糖尿病網膜症の血管透過性、血管増殖の病態は血管内皮増殖因子(VEGF)が主要因子でありその阻害治療が注目されている。しかし、VEGFは網膜神経細胞や定常状態の血管維持に不可欠な因子であり、VEGFそのものを阻害することは網膜の恒常性を損なう可能性が危倶される。Ets1は血管新生に関連する遺伝子を特異的に制御することが示唆されている。VEGFによる網膜血管内皮細胞への影響を検討したところ増殖、Neuropilin1,Ang2などの血管新生関連因子の発現を制御することがわかった。さらにEts1を特異的に阻害するdominant negative Ets1遺伝子を導入することによりマウスモデルにおいて網膜神経や網膜内の血管構築には影響を与えず、硝子体中への異常網膜血管新生のみを抑制することが可能であった(Watanabe et al., Am J Pathol 2004)。さらに脂肪細胞より分泌されるレプチンが糖尿病網膜症患者の硝子体や増殖膜に増加することが報告されている。我々はレプチンが血管内皮細胞に作用してVEGFをautocrineに発現増加させ、網膜血管新生を促進することを見出した。この変化にはレプチン受容体の下流にあるSTAT5転写因子が制御しており、そのdominant negative変異体を発現させることで抑制可能であることが見出された(Suganami et al., Diabetes 2004)。今後さらにこうした転写因子による制御治療を検討していく。
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