累進屈折力眼鏡による近視進行予防トライアル参加小学生96名について、初回受診時にベースラインデータを収集、分析した。 年齢は6〜12歳(平均:9.4±1.4歳)、女子が46%であった。調節麻痺下の赤外線オートレフ値は、-3.22±1.22D(等価球面値)であった。処方した眼鏡の遠用部度数は、調節麻痺下のオートレフ値に比較して、平均0.74±0.37D低矯正であった。調節麻痺により自覚的屈折値は、平均0.25士0.22D増加(近視度数の軽減)したが、1Dを超える大きな変化を示す例はみられなかった。角膜曲率半径は平均7.74±0.24mmであった。4.78Dの調節視標に対して、両眼開放下で測定した平均調節ラグは平均0.98±0.45Dであった。眼鏡レンズで届折異常を完全矯正した場合、29例(31%)が、近見内斜位を示した。 以上の測定結果は、2年後に予定されている、累進屈折力眼鏡の近視予防効果の判定の際、ベースラインデータとして使用される予定である。米国で近年施行された臨床比較研究、Correction of Myopia Evaluation Trial(COMET)のベースラインデータと比較すると、今回の研究の参加者は、調節麻痺下の赤外線オートレフ値が平均0.84D小さかった(より近視が強い)点、また、眼鏡の遠用部度数が低矯正であった点で、差異がみられ、これらは、対象の人種的、環境的差異とは別に、最終的に得られる近視予防効果においてバイアスを与えるかもしれない。また同時に、今回のデータは、現代の日本人近視児童について、屈折、調節、眼位の特徴に関する横断的情報を提供する。
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