Retinoic acid(RA)は、体節決定に極めて重大な役割を果たすHox遺伝子の発現に影響を及ぼすと考えており、retinoic acidのシグナル伝達系の転写制御により、各部域において特異的でより複雑な形態形成を作り上げている。一方、Hox遺伝子は後腸の管腔形成や後腸の上皮や間葉における細胞分化の時期よりかなり早期に認める。今回の研究では、消化管のパターン形成や各器官の分化に関わっている遺伝子蛋白Sonic hedgehog (Shh)およびBone morphogenetic protein (BMP)4に着目し、RAを投与して作成された直腸肛門奇形マウスにおける発現の変化を調べた。その結果、RA投与群の胎仔では95%以上において直腸肛門奇形を認めた。直腸肛門領域において、対照群では上皮においてShhの発現を認め、間質ではBMP4の発現を認めた。一方、Retinoic acid投与群では上皮におけるShhや、間質におけるBMP4の発現は認めなかった。消化管の正常発生では上皮において発現するShhが、後に固有筋層や粘膜下層に分化する間質に発現するBMP4の発現調節を行うことで消化管の分化を制御していた。一方、直腸肛門奇形マウスでは上皮ではShhの発現を認めないだけでなく、間質でもBMP4の発現を認めないため、消化管の分化を制御することができず、正常な発生が生じないことが示唆された。これら臨床的に極めて重要な意義を有する病態の解明を目的としてさらに詳細な研究を次年度以降に進展させた。RAと同様に核内受容体を有するsteroidの中でも特にglucocorticoidであるDexamethasone(Dex)に着目し、retinoic acid(RA)を投与して作成された直腸肛門奇形マウスにおけるDexとの相互作用の変化を調べ、Rescue programとして互いに構造と機能が酷似した核内受容体の拮抗作用を利用してRA及びDexの投与による直腸肛門領域の形態学的変化を検索することで、直腸肛門奇形、特に後腸や周囲の括約筋群・泌尿生殖器系の発生異常についても形態学的かつ分子生物学的に観察し、これらもrescueされうるか検討した。
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