研究概要 |
正常神経発生および神経堤に由来する神経芽腫の発がん・進展機構におけるp53ファミリー遺伝子の機能的役割について、以下の結果を得た。神経芽腫の初回手術時組織におけるp53の遺伝子変異はほとんど見られなかったものの、再発症例の組織および20個の神経芽腫細胞株では約20%に機能消失を伴う変異を認めた。また、我々が神経芽腫組織より抽出した5300 cDNAを搭載したin-house cDNAマイクロアレイを用いて、神経芽腫136例の遺伝子発現解析を行ったところ、p53の高発現は予後の悪さと有意に相関していることが明らかになった。また、p53と同様の発現様式をとる遺伝子の抽出を行ったところ、200個以上の遺伝子が同様の発現パターンをとることが明らかとなった。これは、MYCN発現と相関する遺伝子の数が極めて少なかったことと対照的であった。したがって、p53の細胞質局在の問題を含めて、神経芽腫においてもp53が何らかの機能的役割を担っていることが示唆された。一方、レチノイン酸処理による神経芽腫細胞株の分化誘導およびアポトーシス誘導時におけるp53ファミリー遺伝子(p53,p73,p63)の発現変化を調べたが、概して発現レベルが低く、有意な変化が見られなかった。しかし、シスプラチン耐性株であるKPC4細胞を用いて解析を行ったところ、耐性株においてのみp73,p63のレベルが上昇していた。さらに詳細な解析の結果、耐性株ではそれらのターゲットであるMdm2蛋白質の発現が上昇しており、これがp53の抑制に働いて、抗がん剤によるp53の活性化機構を阻害している可能性が示唆された。現在、その詳細な分子機構を解析中である。これを明らかにすることにより、神経芽腫の多剤耐性を解除する治療法の開発が可能になるものと期待される。
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