研究概要 |
β3インテグリン・サブユニットcDNA導入培養ヒトケラチノサイトの諸細胞機能のin vitroでの解析 レトロウイルスベクター法によりβ3インテグリン・サブユニットcDNAを導入したヒトケラチノサイトは,細胞表面にβ3ならびにαvβ3を発現した.αvβ3発現陽性率は,培養中の細胞密度に依存した.すなわち,20-30%,50-60%,70-80%,100% confluentでそれぞれ69%,68%,65%,33%陽性であった.コントロール細胞ではαvβ3発現は陰性であった.さらに,同ケラチノサイトのαvβ5,αvβ6発現率は,コントロール細胞と同様であり,β3インテグリン・サブユニットcDNA導入は他のαvインテグリン発現に影響を与えないことが判明した.β3インテグリン・サブユニットcDNAを導入したヒトケラチノサイトは,フィブリノーゲン(FG),フィブリン(FB),変性コラーゲン{gelatin(GEL)},ビトロネクチン(VN),フィブロネクチン(FN)に対してコントロール細胞(β-galactosidase cDNA導入ヒトケラチノサイト)に比べて,有意に細胞接着が増加し,細胞伸展が増加した.I型コラーゲンに対しては,両者間でその差がなかった.β3インテグリン・サブユニットcDNA導入ヒトケラチノサイトのFB,GELに対する細胞接着は,LM609あるいはRGDペプチドによるpre-incubationにより濃度依存性に抑制され,αvβ3ならびにRGD依存性であることが証明された.正常マウスIgG1あるいはRGEペプチド(コントロール)によるpre-incubationでは同細胞接着は変化しなかった.また,5日間のcell growth assayにおいて,β3インテグリン・サブユニットcDNA導入ヒトケラチノサイトはFG,FB,VN,GEL上でコントロール細胞に比べて有意に細胞増殖が増加した.同ケラチノサイトの細胞増殖率(培養5日目の細胞数/培養1日目の細胞数)は,FG上でコントロール細胞に比べて著明に増加し,次いでGEL,VN,FB上の順に増加した.LN,IV型コラーゲン,FN,I型コラーゲン上では両者間において細胞数ならびに細胞増殖率の有意差はなかった.さらに,14時間のhaptotaxis migration assayにより,β3インテグリン・サブユニットcDNA導入ケラチノサイトはFG,FB,GEL,VN,FNに対してコントロール細胞に比べて有意に細胞移動が増加した. 以上の結果は,β3インテグリン・サブユニットcDNA導入ヒトケラチノサイトを用いて作製した培養表皮が難治性の深い熱傷創,慢性創傷部(FG,FB,変性コラーゲンが多く局在する)への培養表皮移植片の生着率の向上ならびに再上皮化過程の促進に有用であることを強く示唆した.
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