研究概要 |
口腔内疾患の一つである齲蝕は,ミュータンス連鎖球菌が原因となって起こる感染症である.細菌感染症においては,病原菌の病原性の発現や宿主免疫機構からの回避にはバイオフィルムの存在が大きく関わっていることが明らかになっており,齲蝕においてもプラーク(バイオフィルム)形成が重要なステップであると考えられている.口腔バイオフィルム形成の研究は、従来は試験管レベルでの解析が中心であったために、ヒト口腔を直接反映するような研究に至っていない。ミュータンス連鎖球菌の全ゲノムシークエンスの解読など遺伝子的研究成果などをふまえ、動物実験やよりヒト口腔に近い環境においての実験が必要である。そこで,口腔内環境を人工的に再現したフローセルシステムを用いて口腔細菌のバイオフィルム形成量と発現遺伝子との間の関係を明らかにするため本研究を行った。3才児とその母親からミュータンス連鎖球菌(Streptococcus mutans)を分離しDNA採取後パルスフィールド電気泳動を行い、ゲノム遺伝子の異なる17種類のS.mutansを決定した。フローセルシステムを用いて、唾液を付着させたガラス表面にバイオフィルムを形成させ、バイオフィルム低部に大きな違いのある2菌種を選び、DNAマイクロアレイを用いて遺伝子の発現量の違いを検討した。その結果、バイオフィルム形成量の増加に関わる遺伝子としてバクテリオシン分泌蛋白質遺伝子およびバシトラシン輸送ATP結合蛋白質bcrAなどの3.8%の遺伝子が明らかになった。今後、これらの遺伝子の詳細なバイオフィルム形成および齲蝕の病態への関連性について検討する予定である。
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