研究概要 |
我々はS.mutans臨床分離株から17種の遺伝子タイプの異な菌株を分離し、バイオフィルム形成能について比較を行った。その中のバイオフィルム形成能の高い株(5種類)と低い株(6種類)が認められ、その中から典型的な株を1菌種ずつ選び、コンフォーカルレーザー顕微鏡にバイオフィルム形成能の評価系を確立した。バイオフィルム底面において形成量の違いが認め、このことはバイオフィルムと歯表面との接触面の広さの違いを示し、う蝕になる機会の違いにもつながると考えられる。よってこの評価方法は、バイオフィルム形成の質と病原性を表す有効な方法と考えられた。さらにバイオフィルム内での遺伝子発現の違いをマイクロアレイにて検討した。その結果、4倍以上発現に差がある74遺伝子が認められた。QSシステムを解析するために、そこに関わる遺伝子のCmA,B,C,D,E,Xミュータント株をS.mutans UA159を用いて作製した。このミュータント株を用いれば、候補遺伝子のQSシステムにおける関与を検討することができる。そこで、発現量の異なる74遺伝子について解析を行ったところ、60%以上の割合でこれら遺伝子が、CSPによるQSシステムの制御を受けていることが明らかとなった。これらのQSシステムにより制御を受けている遺伝子にはGlrA,PTS systemなどの、バイオフィルム形成に関与すると考えられているような遺伝子が存在していた。これらの遺伝子を利用してミュータント株を樹立していく必要がある。我々は、そのモデル実験としてGlrAのミュータントS.mutans菌株を作製した。この菌株は、底面におけるバイオフィルム形成量が低下しており、GlrAのバイオフィルム形成に関与する遺伝子であることが証明された。これらの遺伝子はバイオフィルムの増加や減少に関わる遺伝子と考えられ、これらの遺伝子がう蝕リスク診断や母子感染の指標となる可能性が示唆された。
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