研究概要 |
齲蝕のような細菌感染症においては,細菌の病原性発現や宿主免疫機構からの回避にはバイオフィルムの存在が大きく関わっている。口腔バイオフィルム形成の研究は、ヒト口腔を直接反映しない実験系を用いた研究が多い。そこで,バイオフィルム形成に関わる遺伝子を明らかにし、その細菌遺伝子と宿主側の細菌感染防御に関わる遺伝子(唾液分泌遺伝子:E2F-1)との関係を明らかにするためヒト口腔により近い環境を用いて本研究を行った。まずは,口腔内環境を人工的に再現したフローセルシステムを用いて口腔細菌のバイオフィルム形成量と発現遺伝子との関係を明らかにした。3才児とその母親からミュータンス連鎖球菌(Streptococcus mutans)を分離しDNA採取後パルスフィールド電気泳動を行い、ゲノム遺伝子の異なる17種類のS.mutansを決定した。フローセルシステムにおいてバイオフィルム低部に大きな違いのある2菌種を選び、DNAマイクロアレイを用いて遺伝子の発現量の違いを検討した。その結果、バイオフィルム形成量の増加に関わる遺伝子として、4倍以上発現に差がある74遺伝子を認めた。74遺伝子中バイオフィルム形成に重要なクオラムセンシング(QS)システムの制御を受けている遺伝子が、60%以上の割合で存在していた。その遺伝子にはバシトラシン輸送ATP結合蛋白質bcrA, PTS systemなどの、バイオフィルム形成に関与すると考えられる遺伝子が存在していた。これらの遺伝子の中でbcrAのミュータントS.mutans菌株を作製しバイオフィルム形成能の検討を行うと、そのミュータント株は、底面におけるバイオフィルム形成量が低下し、唾液分泌低下E2F-1ノックアウトマウスの口腔における定着能も低下していた。よって、これらの遺伝子はバイオフィルムの増加や減少に関わる遺伝子であり、宿主遺伝子であるE2F-1と相互作用することが明らかとなった。
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