研究概要 |
本年度は,アルギン酸創傷被覆材を直接覆髄材として応用したコンポジットレジン修復を行い,露髄部における象牙質形成への影響について検討を行った.また,脱灰象牙質に対するセルフエッチングプライマー接着システムの象牙質接着性についても検討を行った. その結果,アルギン酸創傷被覆材を応用しなかったコントロール窩洞では露髄部から歯髄側に向かって細管構造の無い第三象牙質の形成が認められたが,露髄部から窩洞内部方向への第三象牙質形成は認められなかった.一方,アルギン酸創傷被覆材を応用した実験側窩洞では露髄部から窩洞方向に多量の第三象牙質形成が観察され,同一窩洞の露髄部のない隣接切片においても第三象牙質が窩洞内部に大量に形成されている像が認められ,第三象牙質と窩洞窩壁とは比較的緊密な接合状態を示していた.露髄部を創傷被覆材で被覆した場合,露髄部での創傷治癒が極めてスムーズに生じ,材料の生体吸収によるスペースが歯髄組織のような結合組織へと容易に置換され,置換した歯髄組織が象牙芽細胞様細胞へと分化して実験側窩洞で見られたような多量の第三象牙質を形成したものと考えられた. ワンボトルワンステップ接着システムの齲蝕影響象牙質および人工脱灰象牙質に対する接着強さは健全象牙質より有意に低く,脱灰方法の違いによっても接着強さに違いが認められた.脱灰象牙質では接着システムのレジンモノマーを脱灰象牙質深層まで浸透させるためには充分な処理時間が必要となるが,ワンボトルワンステップ接着システムでは極めて短時間の処理を行うため,レジンモノマーが脱灰象牙質深部にまで浸透できず,レジンモノマーが浸透・硬化していない脱灰象牙質層が深部に残存している可能性が高いことから,強度の低い脱灰象牙質の存在がワンボトルワンステップ接着システムの齲蝕影響象牙質への接着性を低下させたものと考えられた.
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