コラーゲンの構造安定性に影響を与える因子が、添加物または環境の疎水性であるという予測(=前年度の結論)に基づき、レジン接着剤成分に関連した一群の有機物質がコラーゲンの変性挙動に及ぼす影響を、主として円二色性(CD)測定による二次構造と変性温度の測定から調べた。その結果、(1)各種物質添加による二次構造そのものへの影響は顕著でない、(2)同一価数の直鎖アルコールでは鎖長が長いほど変性温度が低下する(立体構造が不安定化する)、(3)同一鎖長の直鎖アルコールではアルコールの価数が高いほど変性温度が上昇する(立体構造が安定化する)、(4)芳香族アルコールはコラーゲン立体構造の不安定化効果が非常に顕著であることなどが明らかになった。これらの結果は、添加物もしくは媒質の疎水性が高まるとコラーゲンの構造安定性が低下することを示す。コラーゲンの主要な構造安定化因子は、コラーゲン分子を構成する3本のポリペプチド鎖の間に働く水素結合と考えられているが、得られた一連の結果から、三重らせん構造の中心部位の疎水相互作用も水中では構造安定化の一因であることが示唆された。これを確かめるために、ピレンを疎水プローブとして蛍光スペクトル測定を行い、未変性コラーゲンに疎水領域のあること、変性によりらせんのコアの疎水領域が消失することを示す実験を行った。また、中性pHでのコラーゲンの自発的な会合に際して疎水領域が形成されるか確かめる実験を行った。しかし、現時点では疎水領域の存在を示すデータは得られていない。なお、酸性pHと中性pHでは、同じ添加物質でもコラーゲンの構造安定性への影響の仕方が異なることもわかった。以前の研究で、用いたコラーゲンでは等電点がpH4.1付近にあること、酸性pHに比べて中性pHでは顕著に会合しやすいことがわかっており、疎水相互作用に関して、等電点の上下でコラーゲンの性質が異なることが示唆された。
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