CDスペクトル測定および温度変化測定より、疎水性の異なるアルコール型化合物の添加によって、コラーゲンの二次構造に変化は引き起こされないが、変性温度は添加アルコールの濃度が高いほど、またアルキル鎖が長く疎水性が高いほど低下しやすく(不安定化)、アルコールの価数が高く親水性が高いほど上昇しやすい(安定化)ことが明らかになった。これは併用したDSC測定からも確認された。この傾向を定量的に考察するために、アルコールの種類と濃度によって変化する媒質の疎水性をそのときの誘電率で表現し、一方、コラーゲンの変性のしやすさを濃度変化に伴う変性温度の低下率で表すと、コラーゲンの環境(媒質)の疎水性が高いほど構造安定性が低下する(変性しやすい)ことが、半定量的に示された。疎水構造を適切に付与することで、コラーゲンとの相互作用の強さを制御した接着性モノマーの設計が可能であることが示唆された。 また、コラーゲンは等電点(pI4.1)上下のpHで凝集挙動の異なることがCD測定から示されたが、疎水プローブを用いた蛍光スペクトル測定実験では、pH3とコラーゲンが凝集しやすい中性pHで差異が見られなかった。疎水効果によりコラーゲンが凝集するのであれば、凝集体内部に疎水領域の生じることが環境プローブの蛍光スペクトル変化から明らかになるはずであったが、これが確かめられなかったことから、中性pHでのコラーゲンの凝集挙動には別の因子が働いていると考えられた。コラーゲンとアルコール型化合物との相互作用はpH3と7で同じ傾向であり(ただし変性温度はpH7で全般に高く現れる)、凝集状態の違いはこの相互作用に本質的に影響しないことがわかった。
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