研究概要 |
1)可塑性を発揮する分子構造を持つ重合性単量体の探索 ポリマー粉末と液成分とを混和させる現在の一般的な手法で軟質裏装材を調製することを前提にして,液成分の候補物質としてのビニルエステル類17種類の初期流動性を調べた.その結果,8種類が市販品と同等の初期粘弾性を示すことが明らかとなった. 2)In vitroにおける生物学的評価 上記の8候補物質に対して,エストロゲン様試験,細胞毒性試験の生物学的評価を行った.その結果,8候補物質全てでエストロゲン様活性は認められなかったが,その中でも細胞毒性の弱い3候補物質,Vinyl octanoate (VO), Vinyl pivalate (N5VE), Divinyl adipate (DVA)を選択した. 3)性能試験および臨床模擬試験(in vitro) これら3候補物質で試作品を作製し,ゴム硬度測定による性能試験と臨床状況を模した2通りのin vitro組織モデルによる生物学的安全性試験を行い,3種類の市販品と比較した.その結果,市販品では,水中浸漬によってそのゴム弾性が徐々に増大したのに対して,試作品においてはN5VEを除く2候補物質では初期の硬度が維持されていた.コラーゲンゲル培養法ならびに三次元培養皮膚モデルを用いた生物学的安全性試験ではVOは市販品と同様に弱い細胞毒性にとどまったが,N5VEおよびDVAでは強かった.さらに炎症性サイトカインmRNAならびに蛋白発現定量についてもVOで市販品と同様に低い値を示した. 以上,補綴臨床を想定して数種の評価試験を実施した結果,VOを液成分とした試作品が可塑剤フリーの軟質裏装材の候補となり得ることが示唆された.最終年度はこれまでに得た結果に基づいて,未解決の研究課題も含めて残りの研究計画について重点的に研究を進め,3年度にわたる研究を完成させたい.
|