研究概要 |
インプラントは骨結合に至る過程で,まずその周囲にコラーゲンやプロテオグリカンを主体とした細胞外基質による類骨が形成され,その類骨が徐々に石灰化していく.この石灰化過程では,matrix metalloproteinase (MMP)などのプロテナーゼとそのインヒビターであるTissue inhibitors of metalloproteinase (TIMP)が相互作用して,細胞外基質の分子レベルでの構造変化が起こった結果,石灰化が営まれる.昨年度,コラーゲンを分解するMMP-13が石灰化前に多量の発現量を示し,プロテオグリカンを分解するMMP-3が石灰化期に入ると有意に発現量が増加することを見出し,これら2種類のMMPが時間相反的に作用して,インプラント周囲での骨形成の一端を担っている可能性を示唆した.しかし,TIMPのインプラント周囲での骨石灰化過程における働きは不明である.本年度は,インプラント周囲での骨形成におけるTIMPの働きをin vitroで調べる目的で,チタン(Ti)上で培養した骨芽細胞による石灰化過程におけるTIMP-1,-2,と-3の遺伝子発現パターンを検証した.プラスチック(Pl)上で培養した場合,石灰化は培養開始30日後に開始したが,Ti上で培養した場合はそれより10日遅れて開始した.Alkaline phosphataseとtype I collagenの発現もTi上で10日遅れていたことから,Pl上よりもTi上では骨芽細胞の分化とそれによる石灰化は遅れていることが判明した.石灰化前後における発現量の変化はいずれのTIMPにおいても認められず,その発現量はTIMP-3,-1,-2の順で高かった.また,発現レベルは両材料上で全く差が認められなかったことから,骨形成過程におけるTIMP-1,-2および-3の役割は材料に依存しない可能性が考えられた.時期特異的な役割の可能性は見出せなかったものの,TIMP-1,-2および-3は,インプラント周囲での骨形成に何らかの役割を担っていると考えられる.
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