研究概要 |
本研究は、口腔癌の浸潤、転移におけるCOX-2の関与を明らかにするため、口腔癌の浸潤先進部および転移巣でのCOX-2発現を検索するとともに、口腔癌培養細胞にCOX-2遺伝子を導入し、浸潤能および転移能に及ぼす影響、さらにはその分子機構を解析した。また、COX-2選択的阻害剤による浸潤・転移抑制効果を検討し、COX-2が口腔癌治療の分子標的となりうるか否かを明らかにしようとした。 1.頸部リンパ節転移を有する(LN+)口腔癌原発巣は、有さない(LN-)原発巣に比べ、有意にCOX-2発現が高く、転移巣ではさらに発現が増強した。原発腫瘍の大きさに比例して、あるいは浸潤先進部に強い発現を示した。COX-2発現上昇に伴い、Laminin-5γ2やDNA-Topo IIα発現も上昇した。 2.5年累積生存率は、LN+でCOX-2およびDNA-Topo IIα発現の高い症例ほど不良であった。 3.口底癌由来KB細胞にCOX-2遺伝子を導入した高発現クローン(KB/COX)は、対照(KB/neo)に比べて4倍高いCOX-2蛋白発現を認め、PGE_2産生、細胞運動能および浸潤能も有意に増強した。 4.KB/COXは、KB/neoに比べ、MMP9,pro-MMP2,activated-MMP2,MT1-MMP活性およびケモカインレセプターCXCR4蛋白発現が増加し、TIMP1,TIMP2,E-カドヘリン発現は減少していた。 5.KB/COXは、KB/neoに比べ、ヌードマウス皮下移植における造腫瘍性が高く、腫瘍増殖も速かった。また、口底部への同所性移植では、KB/COXは、KB/neoに比べ強い局所浸潤性を示した。腫瘍片のFilm in situ zymographyにおいて、KB/COXには高いゼラチナーゼ活性が認められた。 6.KB/COXでは、心臓注入あるいは口底移植により、高率に肺、骨などへの多発性転移を認め、咬筋部移植により頸部リンパ節転移を認めたが、KB/neoではほとんど転移を認めなかった。 7.頭頸部癌培養細胞にCOX-2阻害剤セレコキシブやスリンダクを作用させると、細胞増殖は濃度依存性に抑制され、PGE_2産生、COX-2タンパク発現も抑制された。セレコキシブによる細胞増殖抑制効果はアポトーシスによるものであり、抗癌剤との併用により殺細胞効果が増強された。 8.DMBA誘発ハムスター頬嚢化学発癌では、COX-2の発現増加がみられ、セレコキシブやスリンダク投与により、発癌時期の遅延、腫瘍増殖抑制、生存期間の延長が認められた。セレコキシブによる腫瘍増殖抑制機序として、アポトーシス誘導と腫瘍血管新生抑制作用の関与が示唆された。 9.ヒト口腔扁平上皮癌細胞SCC25を、分化誘導剤である酪酸ナトリウムやレチノイン酸で処理すると、細胞角化を示す分化誘導がおこり、同時に腫瘍増殖とCOX-2発現が抑制された。 以上の結果から、COX-2は口腔癌の浸潤・転移に強く関与し、口腔癌治療の分子標的となる可能性が示唆された。
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