研究課題/領域番号 |
15390638
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
野中 和明 九州大学, 大学院・歯学研究院, 教授 (90128067)
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研究分担者 |
飯田 弘 九州大学, 大学院・農学研究院, 助教授 (70150399)
山口 登 九州大学, 大学院・歯学研究院, 助手 (00230368)
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キーワード | 口唇裂口蓋裂 / 胎児マウス口唇裂外科的閉鎖術 / 口唇無血清器官培養法 / 口唇裂口蓋裂自然発症CL / Frマウス / 羊水因子 / 母体効果 / 血管新生 / 組織癒合 |
研究概要 |
本研究者は、胎児マウス口唇裂外科的閉鎖術により、術後瘢痕を形成することなく口唇組織再癒合をもたらすことを既に立証した。以前の成果として、口唇裂自然発症マウス(CL/Frマウス)の母体内胎児マウス口唇裂外科的閉鎖術法と口唇無血清器官培養法により、胎児期の口唇閉鎖術により口唇が再癒合し交通すること、その誘導因子として血小板から分泌された増殖因子(TGF-beta3)が口唇突起の頭部神経堤由来間葉細胞の増殖能と移走能を亢進させ、間葉細胞数の増加により組織癒合に貢献することを解明した。 そこで本研究では、口唇裂口蓋裂自然発症マウス(CL/Frマウス)を用い、口唇口蓋発育促進により胎児期口唇裂口蓋裂自然閉鎖療法を実現する母体子宮内羊水因子を同定し、その機能を解明することを目的とした。 第一の成果として、口唇裂に罹患した新生児マウスに口唇裂閉鎖術を行い、鼻口唇無血清器官培養法を用いて瘢痕形成抑制のため増殖因子(TGF-beta3)分子レベルでの役割を検索したところ、瘢痕の主構成成分であるI型コラーゲン産生細胞である繊維芽細胞の分化抑制と細胞外マトリックス分解酵素(MMP9)の活性亢進によりコラーゲンの蓄積が抑制し瘢痕形成の抑制がもたらさる分子機序を遺伝子発現レベルとタンパク質発現レベルの両面から解明した(発表論文2003)。 第二の成果として、ヒトリコンビナントTGF-β3をビーズ埋入法で胎仔マウス歯髄中に発現させることで、濃度依存的に異所性に石灰化を誘導した。さらにTGF-β3は、オステオカルシン、1型コラゲンのmRNAとタンパク質の発現を歯髄細胞内で上昇させた。またTGF-β3は初代培養歯髄細胞でdentinsialo phosphoprotein (DSPP)とdentin matrix protein1(DMP1)の発現を誘導しているが、頭蓋冠骨芽細胞では誘導できないことを明らかにした。一方、オステオカルシン、オステオポンチン、オステオネクチンについては、TGF-β3処理で初代培養歯髄細胞、頭蓋冠骨芽細胞双方で誘導されることがわかった。In vivoにおいてTGF-β3ビーズ埋入部近傍で、Dentin sialoprotein (DSP)も部分的に発現していることが観察された。これらの結果から、TGF-β3は歯髄細胞中でオステオカルシン、1型コラゲン発現を亢進させることを通して異所性石灰化を誘導することを示した、TGF-β3が歯髄未分化細胞から象牙芽細胞への分化を制御している可能性を示唆できた(発表論文2005)。 第三の成果として、口唇裂自然発症CL/Fr胎児マウスの口唇を無血清器官培養し、培養液中に外因性にTGF-β3を投与し2日間培養を行った。口唇裂自然発症CL/Fr胎児マウスの口唇癒合は、TGF-β3によって濃度依存的に亢進することが観察された。また、同時に、血管新生のマーカーであるFlk-1,CD31、細胞増殖マーカーであるCyclin D1の発現の亢進がRT-PCR法と免疫染色法とWestern Blotting法を用いた実験により観察された。つまり、TGF-β3の濃度依存的な口唇癒合の亢進のメカニズムとして血管新生、細胞増殖を介していることが考えられることを我々は示唆することができた(投稿中)。TGF-β3の発現を誘導する羊水中因子の解析は、引き続き進行中である。以上の結果から、Transforming Growth Factoスーパーファミリーシグナルは、歯及び口腔軟組織形成過程において必須分子機序を果たしており、今まで未知の領域であった分野の開拓に貢献できたものと考えられる。
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