本研究では、口臭原因物質の一つである揮発性硫化物の病原性の解明と新しい治療法の開発を目指して、まず口腔内細菌の硫化水素産生能について調べた。口腔内の常在菌である6種類のレンサ球菌および4腫類の歯周病細菌の硫化水素産生能を比較したところ、Streptococcus anginosusは、歯周病細菌と同等の高い硫化水素産生能を持つことが明らかとなった。他のレンサ球菌に比べてS.anginosusが高い硫化水素産生能をもつことから、システインを分解して硫化水素を産生するL-システイン分解酵素(βC-S lyase)の遺伝子(lcd)を6種類のレンサ球菌から単離し、比較検討を行った。その結果、S.anginosusのβC-S lyaseは他のレンサ球菌の同酵素と比較して特異的なアミノ酸配列を保持していなかった。またS.anginosusのβC-S lyaseは、基質としてのL-システイン分解能は非常に高かったが、L-シスタチオニンの分解能は低かった。 次にS.anginosusのシスタチオニン合成酵素(cystathionine γ-synthase)遺伝子(cgs)を単離し、同酵素を精製してその特徴を調べた。その結果、この酵素遺伝子cgsはL-システイン分解酵素遺伝子lcdの上流に位置し、同一の転写単位として機能することが明らかになった。さらに、S.anginosusのcystathionine γ-synthaseは、O-acetylhomoserine sulfhydrylase活性も持つことが示された。これらの結果から、S.anginosusはtranssulfurationおよびdirect sulfhydrylation経路によりホモシステインの合成をすることが示唆された。 現在これらの酵素を失活した変異株を作製し、硫化水素の病原性の解明を進めつつある。
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