本研究では、口臭原因物質の一つである揮発性硫化物の病原性の解明と新しい治療法の開発を目指して、まず口腔内細菌の硫化水素産生能について調べた。口腔内の常在菌であるレンサ球菌および歯周病細菌の硫化水素産生能を比較したところ、Streptococcus anginosusグループに属する菌は、歯周病細菌と同等の高い硫化水素産生能を持つことが明らかとなった。他のレンサ球菌に比べてS.anginosusが高い硫化水素産生能をもつことから、システインを分解して硫化水素を産生するL-システイン分解酵素(βC-S lyase)の遺伝子(1cd)を6種類のレンサ球菌から単離し、比較検討を行った。その結果、S.anginosus のβC-S lyaseは他のレンサ球菌の同酵素と比較して特異的なアミノ酸配列を保持しておらず、また基質としてのL-システイン分解能は非常に高かったが、L-シスタチオニンの分解能は低かった。 次にこのS.anginosusグループの菌は膿瘍から高頻度に回収されることが示されており、化膿性炎症病巣において生体の防御機構に抵抗する因子を持っていることが予測された。そこで同菌の膿瘍形成能を調べるためのマウス実験モデルを確立した。プラークそのものをマウス皮下に注入して経日的にその膿瘍形成状態を調べ、膿瘍中に含まれる菌種を調べたところ、S.anginosusグループに属する3菌種が高頻度に回収された。生体防御因子との反応を調べるためヒト好中球による貪食のされ方を他の菌種と比較したところ、S.anginosusグループの菌は好中球に対して高い抵抗性を示すことが認められた。この抵抗性は同菌のもつ高い硫化水素産生能と関係があることが推測されるため、βC-S lyaseの遺伝子を欠失した変異株を作製して野生株との比較検討を継続している。
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