本年度の研究実施計画にもとづき、『ナウサリ聖火殿』を英語に翻刻する作業(役割分担中別府・祭司長メルジ・ラーナ・F.M.コトワル)とイラーンにおけるゾロアスター教徒の実態調査(役割分担青木)を行った。 『ナウサリ聖火殿』史料(Navsarinan pak atashbeheram sahebnan navan makanne lagto ahaval taths teno avak javakta hisab)の翻刻は、全体の三分の一を終了した。この作業にもとついて、現時点までに明らかになった事実は、次のとおりである。 (1)ナウサリの聖火および聖火殿の建設は、聖なる火および祭司の管轄権(panthak)をめぐるバガサ(Bhagarsath)祭司とサンジャン(Sanjan)祭司の対立を背景としている。 (2)聖火殿の建設は、スーラトをはじめ、ナウサリ以外のパーシー・コミュニティとの連携によって行われている。この方法は、建設場所を中心とする従来の聖火殿建設と異なる。 (3)聖火殿の建設は、当該史料にもとづくと、18世紀から19世紀にかけて、パーシーがインド西北沿岸地域からボンベイを中心にして、社会経済的基盤を築く時期に生じた祭司階級の分化に伴って行われた。 青木は、2003年12月16日〜2004年1月15日、イラン南部のファールス州とイラン東部のヤズド州・ケルマーン州の2ヶ所を重点的に調査した。前者では、古代ペルシアのゾロアスター教遺跡が調査対象となり、後者では、現代のゾロアスター教徒の民間信仰が調査対象となった。その結果、(1)ゾロアスター教の拝火神殿遺跡の構造について、摩崖横穴式ダフマと拝火壇の密接な関係などを発見した。 (2)また、イランの民間信仰に関して、聖木・聖水・岩石信仰が拝火壇の設置によってゾロアスター教的に合理化されているなどの事実を突き止めた。
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