本年度は、昨年度の研究成果をふまえて、まず研究分担者の高田明氏が、アメリカ合衆国の研究集会に参加し、これまでの研究成果の発表および、関連する分野の研究者との討議を行った。また、高田は南アフリカ、ボツワナ、ナミビアにて現地調査を行い、コエ諸語の一次資料の蓄積をつづけた。 研究分担者の大野仁美氏は、中川とともに昨年にひきつづき、グイ語とガナ語の知覚動詞とその関連語彙の意味分析をさらに進め、データベースを敷衍した。また、大野氏は単独で、ドイツのケルン大学を訪問し、同大学のアフリカ・インステイチュートの関連研究者および、どう研究所に滞在中のニック・エバンス(メルボルン大学教授)とコエ語の語彙に関する情報交換と議論を行った。 研究代表者の中川裕は、コエ語の全般的なドキュメンテーションを進めるための基礎的な調査分析を国内で行い、また、ドイツで出版された最新のKhwe語辞書を入手して、そのレビューに着手した。この資料は、例文がほとんどないため、この言語自体を分析する資料としては貧弱であるが、知覚動詞や関連語彙の同根語の意味記述をグイ語やガナ語と比較することにより、この意味分野におけるコエ諸語の特徴の概観には非常に興味深い知見をもたらしそうな見込みである。 全般的に見ると、今年度は、まだ総括するべき段階には至っていない研究項目ばかりであるが、コエ諸語の語彙意味論に関する言語事実の集積は確実に進歩していると判断できる。
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