研究概要 |
8〜9月、11月、12〜1月に南アフリカとボツワナに渡航し、最終的調査と録音資料収集を実施した。その結果、コエ語族の未記述言語であるツィラ語とカバ語の知覚動詞体系に関する理論的に興味深い新事実を発見した。以下に要約する。 ツィラ語はグイ語・ガナ語と同じ知覚動詞体系をもつ:Activity(ACT)とExperience(EXP)とを区別しない(ACT-EXP)がCopulative(COP)は区別される;ACT-EXPでもCOPでも視覚は独立語彙化されているのに対し、聴触味嗅覚には同一の多義的語彙が与えられている;聴触味嗅覚の動詞は、ACT-EXPでは聴覚が基本義であるのに対し、COPでは味覚が基本義である。この多義性と意味拡張は、Vibergが提案しているCOPの語彙化にかかわる一般化への反証となる。 カバ語の知覚動詞体系においては、ACT-EXPで視覚と聴覚とが各々語彙化されるが、触味嗅覚には同一の多義的語彙が与えられる。また、COPでは上記の3言語と同様に、視覚だけが独立の語彙をもち、聴触味嗅覚には同一の多義的語彙で表現される。この体系で重要なのは、ACT-EXP触味嗅動詞とCOP聴触味嗅動詞の基本義がいずれも味覚と判断されることである。これは、Vibergが提案する知覚動詞の普遍性に対して2つの反証(味覚→触覚、味覚→聴覚という逆行的意味拡張)を示す。 本研究はこのように従来提案されていた知覚動詞の普遍性や一般化に改訂を求める新知見をもたらした。なぜコエ諸語では、このように味覚が重要な役割を果たすのだろうか?コエ諸語知覚動詞の類型論的特徴とこの問題にたいする探求をテーマとした研究発表を、Association for Linguistic Typology - 7th Biennial Meeting,25-18 Sept 2007,で行う予定である。
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