研究概要 |
今年度はベトナムの手話事情について,ホーチミンとハノイで聴覚障害者団体の組織と活動,聴覚障害児(者)教育,手話研究の動向に関する検知調査をおこなった。 ベトナムにはまだろう者の全国組織はできていない。しかし,地域単位で少しずつろう者のクラブが立ち上がり,ろう者の活動は活発になり始めている。ハノイには2000年にデフ・クラブが立ち上がり,現在140名のろう者が会員になっている。まだろう者の活動範田は狭いが,ろう者どうしの団結は年々強くなっており,今後の発展が期待される。 ハノイには手話通訳者が6〜7名いるが,かれらはいずれも専門的な通訳トレーニングを受けた公認の手話通訳者ではなく,ろう者との交流でベトナム手話を覚えたボランティア通訳である。手話通訳者の養成や通訳の制度化が今後の課題である。 ホーチミン市では第一希望ろう学校や障害児教育センターを訪問し,教育現場における手話言語の地位と役割について調査した。ベトナムのろう学校のほとんどは口話主義(聞こえないこどもが声を出して話すように訓練する)で教育をおこなっている。使用している手話は音声言語対応手話であり,教室では,ろう児が発話を優先させながら二義的に音声対応手話を使用していた。ろう者独自のベトナム手話を学校教育で採用しようという動きはまだないが,どの教室でも健聴の教師が音声対応手話をうまく使い,生徒とのコミュニケーションはスムーズにおこなわれていた。 ホーチミン市郊外にあるドンナイ県師範学校では,ろう者の高等教育をおこなう特別プロジェクト研究が進行中である。国内各地からエリートのろう学生が集まり,大学レベルの高等教育を受けている。ここでは手話の学術的研究もすすめられ,ハノイ在住のろう学校教師たちと共同で,ベトナム手話辞典の編纂もおこなっており,4割強も差異があるという南北ベトナム手話の標準化をめざしている。
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