2006年度の本研究課題では、研究計画に示した通り、エクアドル南部に位置するインカ国家の行政センター・ソレダー遺跡の発掘調査ならびに出土遺物の整理・分類を実施した。 これまでの調査・研究を通して、ソレダー遺跡ならびに近隣に位置する行政センター・ムユプンゴ遺跡は、武力衝突を経て建設途上で放棄されているという考察が得られている。周辺域では、この考察を支持する可能性が極めて高い、3000〜5000基にもおよぶ墓が確認されている。これらの墓は極めて簡易的に構築されたもので、墓域の中に集中的に認められずに、アンデス西斜面の多くの尾根上や丘上に、広範囲にわたって散在するものである。これまでに、一つの墓に複数の遺骸を投げ込むように埋葬したものや、惨殺された痕跡を明瞭に示す遺骸を埋葬し、インカ時代の遺物と共に、アンデス先住民社会には存在しなかったガラス製の玉やビーズを副葬した墓などが確認されている。こうした特徴・状況より、これらの墓はインカ国家と地方社会の間に生じた大規模な戦闘の犠牲者を埋葬したもので、その戦闘は植民地時代になっても継続していたという仮説的解釈が得られていた。2006年度の調査では、こうした解釈の検証・実証を目的として、墓の発掘調査を集中的に実施した。 調査の結果、頭部と左大腿部のみを埋葬し、インカ様式の典型的な土器であるアリバロ、針、ガラス製の玉やビーズなどを副葬した墓、ならびにインカ時代の特徴を示す金属製のピンセットに加え、やはりガラス製の玉を副葬し、指の骨のみが出土した墓などが検出された。こうしたデータは、上述した仮説的解釈を完全に支持するものであり、エクアドル海岸部方向に拡大するインカ国家の境界領域の状況をめぐる極めて貴重な実証的資料が得られたことになる。 今後は、さらに重層的なコンテクストの中で調査・研究を進めていく必要がある。
|