チベット亡命政府が誕生して40年以上が経過し、インド、ネパールなどにおけるチベット難民社会も3世代目を迎えるようになっている。本研究は、自然環境、生活環境、政治体制、隣接住民を異にする各地のチベット難民社会を対象に、第3世代に認められる新しいエスニシティ形成のメカニズムを文化人類学的視点から明らかにすることを目的とする。 研究代表者は、平成17年10月に、インド国、マナーリ、ラダック地区のチベット難民社会においてフィールド調査を実施し、研究分担者は、平成17年7月から8月にかけてチベット難民社会の比較検討のため、チベット難民の出身地である中国、カム地区のチベット社会においてフィールド調査を実施した。 研究代表者および研究分担者は、各チベット難民社会のフィールド調査にあたっては、地域の自然環境、難民社会の規模と生業形態、難民社会内の社会関係と組織化、隣接住民および地域社会との関係、世代ごとの伝統文化、宗教、言語に対する考え方とエスニシティの関係、日常生活における宗教実践の記録とエスニシティとの関係、祭りや儀礼の実施とエスニシティの関係、チベット人としてのエスニシティとアイデンティティなどについて、参与観察および詳細なインタビュー調査を行い、カメラ、VTR、テープレコーダにより記録、整理し、分析を行った。 現地調査で得られた資料は共通のフォームを作成してデジタルデータ化し、ノート型PCを通じてメンバーが共有するとともに、研究の進捗状況を打ち合わせるための会合を開き、共同作業・共同研究を進めた。その上で、得られた結果を総合的に比較検討し、チベット難民社会における新しいエスニシティ形成のメカニズムを分析し、研究成果を総括した。
|